2026/05/17岐阜美濃加茂・高木山南陵マルチピッチ(合計10P) 〜新緑の岩壁に刻む、現代の「小牧・長久手の戦い」〜

長大な岩稜に挑む緊張感、どこまでも広がる新緑、そして息つく間もなく続く全10ピッチの持久戦。その行程はまさに、天正12年(1584年)に羽柴秀吉と徳川家康が知略と体力を尽くして戦った「小牧・長久手の戦い」の緊迫した戦局のようでした。初めてのルートに身を投じた今回の山行を、あの歴史の進軍になぞらえて記録します。

  • 山域: 岐阜県美濃加茂市 高木山南陵
  • 目的: マルチピッチクライミング(合計10ピッチ)
  • 参加者:3名

【合戦の記録(行程)】

〜初めてのルートへの緊張感と、確実な一歩〜 小牧・長久手の戦いが、互いの陣地(小牧山城と楽田城)を睨み合う緊迫した対峙から始まったように、高木山南陵の最下部、1ピッチ目の取り付きは心地よい緊張感に包まれていた。 初めて目にする岩肌。ホールドを探り、一手一手を慎重に進める。岩肌ははがれやすく落石に細心の注意を図って登る。2ピッチ(傾斜ゆるめ)、3ピッチと高度を上げるにつれ、周囲を取り囲む眩い新緑が目に入ってくる。この瑞々しい緑の美しさは、これから始まる長丁場の戦いを前に、戦士の心を一瞬癒やしてくれるかのようだ。

戦局が動き出す。秀吉方の池田恒興らが家康の本拠地・三河を突くべく密かに進軍した「中入り」のように、我々も岩稜の中核へと深く足を踏み入れていく。 4ピッチ目を越えたあたりから、足元がすっぱりと切れ落ち、マルチピッチならではの「程よい高度感」が全身を突き抜ける。風が吹き抜け、視界が広がる快感と、絶対にミスは許されないという緊張感。 5P、6P、7P……。まるで池田・森長可の軍勢が岩崎城を攻め落とした時のように、一気にピッチをこなしていく。しかし、家康軍の追撃が背後に迫るような、じわりとした疲労が確実に足腰に蓄積され始めていた。

ついに戦いはクライマックス、長久手盆地での総力戦(白山林・桧ケ根の戦い)へ。 8ピッチ目を迎える頃には、「合計10ピッチ」という数字の重みがズシリと響いてくる。ロープ操作、支点構築、確実な足並みの維持。4回の懸垂下降、「まだ続くか」と思わせる長さは、まさに家康の本隊と正面衝突し、一進一退の攻防を繰り広げた激闘そのもの。体力的にも精神的にも総力戦となったが、仲間と息を合わせ、最終10ピッチ目の岩頭へ。 最後のロープをたぐり寄せ、トップアウトした瞬間、長きにわたる高木山南陵との「合戦」に終止符が打たれた。

激戦を終えた後の引き揚げは、実に迅速だった。 秀吉の本隊が長久手の敗報を聞き、大急ぎで軍を返した(大軍の移動としては異例の速さだった)ように、我々も余韻に浸りつつ、踏みあとを確認しつつ登山道を一気に下る。 登りのあの長さが嘘のように、わずか20分という驚異的なスピードで登山口へと帰還。無事にこの「美濃加茂の合戦」の幕を閉じた。

初めての高木山南陵は、10ピッチというスケール感の中に、マルチピッチの緊張感と高度感、そして5月の美しい新緑が凝縮された素晴らしいルートでした。 長丁場の戦いを戦い抜いた充実感は、歴史に名を残す大合戦を終えたかのような深い満足感を残してくれました。また一歩、確かな経験値を積み上げた充実の山行となりました。